【ポケモン同人誌事件】

■「同人誌」や「パロディ」という言葉の示すもの(99.2.18)


 事件の作者のコメント掲載のおかげか、アクセス数が普段の5倍以上に増えています。いろいろなページや掲示板に「福岡同人誌イベント情報」のURLを紹介していただいているようで、嬉しいかぎりです。
 また、同人誌関係でないポケモンのファンの方や、アニメのホームページをやっている方などもかなり来ていただいているようで、今回の事件に対する注目度がうかがえます。

 そんな中で感じるのは、「同人誌」や「パロディ」といった言葉の意味するものが人によって(特に一般の方では)、かなりばらばらだということです。
 しかし、ふと私自身はその意味を自分なりにちゃんと定義して使っていたのか、と考えると、けっこういい加減だったかもしれないなあ、と思うようになりました。

 そこで、自分なりに定義の範囲を分解し、整理してみたのが以下の文章です。といっても同人誌全体を捉えようとすると、とんでもない分量になってしまうので、今回は事件と関わりのある「パロディ同人誌」「アダルト同人誌」を主なテーマとしました。
 また、これらの内容はあくまでも私の考え方であり、同人誌界一般の考え方と必ずしも一致しない部分があるかもしれないということも明記しておきます。
 同人誌関係の方にとってはいまさら、という内容ではありますけど、同人誌をあまり知らない方が、「一口に同人誌やパロディといっても、いろいろな側面があるんだなあ」ということを感じでいただければと思います。


1.同人誌

 コミケなどの同人誌即売会で見かける「同人誌」には大きく分けて二つのものがあります。

a.同好会などが同人活動の一環として発行した、昔ながらの狭義の同人誌
b.個人、もしくは何人かの個人が集まって発行した個人出版に近いもの

 昔は、「同人誌」といえばa.を指していました。しかし、今、同人誌イベントで見かける本の9割以上はb.でしょう。
 広辞苑的な日本語でいえば、b.は正確には「同人誌」とは呼ばないでしょう。しかし、現実にはどちらも「同人誌」という名称を使用している(というより、コミケなどで売られる本=同人誌と呼ばれている、かな?)ために、特に同人誌界以外の人と話す場合に会話がかみ合わなくなることがよくあります。
外の人は「同人誌」をa.と思っており、中の人はb.と思っているからです。(同人誌売上の是非などで議論されるときにも、よくこのズレは起こります)

 どうして、こんな風に変わってきたか、いろいろ見方はあると思いますが、私は、まず同人誌イベントが定期的に、しかも多くの回数開催されるようになってきたのが一番大きな原因だと思います。
 昔は、同人誌を出すには、かなりのお金が必要でした。そのため、同好会などは会員という制度の中で会費の一部を同人誌の印刷代に回し、なんとか安定した発行体制を維持していました。つまり、買い手をあらかじめ確保することで、印刷代を捻出していたわけです。
 また、自由に売りたくても、いつ同人誌即売会が開催されるか、非常に不安定で(地方の場合は特にそうでした)、開催回数もまだ少なく、売上で印刷代を捻出できるレベルには達していませんでした。ですから、多くのサークルは少なくとも即売会での販売は、同好会の宣伝も兼ねた副次的なものにとどまっていたのです。

 ところが、同人誌イベントが定期化し、その回数も増えてくると、イベントでの売上によってなんとか印刷代をまかなえる可能性が出てきました。定期化したことで、少なくとも作っても売る場が確保できない、という問題は解消されたからです。(だからといって、売れるかどうかはまた別問題ですが)
 また、同人誌専門の印刷屋さんも出始め、以前よりかなり安い値段で同人誌が作れるようになってきました。
 こうなってくると、同好会といった枠の中でいろいろと調整して本を作っていくより、個人の感性を全面に押し出して、作り手の色がより反映された本を作っていきたい、という動きが出てきたのも当然でしょう。そして、それを決定づけたのが「キャプテン翼」ブームだったと思います。

 私の分析が正しいかどうかはさておき、それまで、作った同人誌があるから同人誌即売会で売る、という流れがメインだったのが、同人誌即売会という場に出していくものとして同人誌を作る、という流れに変わっていったのは事実です。
 ですから、今のコミケなどでの「同人誌」はほとんどが「自費出版物」「個人出版物」と捉える方が、イメージ的にはぴったりくると思います。


2.パロディ同人誌

 次に、今回の事件に関連した切り口で見ていきましょう。まず、一般に「パロディ同人誌」と呼ばれているものからです。
 ちなみに、同人誌界でよく聞く「アニパロ同人誌」とは、「パロディ同人誌」の中で、特にアニメを題材としたものを指します。(でも、「マンパロ」とか「ゲーパロ」とかは、あんまり聞きませんね。どうしてかな?)

 「パロディ同人誌」と呼ばれるものは、以下の3つに分類できるのではないかと私は思います。

a.ギャクを主体としたいわゆる昔ながらのパロディ(風刺なども含む)
b.作品やキャラクターに刺激されることによって生まれた外伝的作品やキャラクター等を利用したオリジナルストーリー
c.読者の性的興奮を目的としたもの(いわゆる狭義のポルノ)

 たぶん、多くの一般の方は「パロディ同人誌」というとa.をイメージされていると思います。また、「パロディ同人誌は原作のキャラでHなことばっかりやっていて本当にひどいらしい」と思われている方は、c.の話をよく聞かれているのかもしれません。
 しかしながら、今の同人誌の世界においては、b.がかなりの割合を占めています。比率は・・・そうですね、数字の根拠となる資料が手元にないので、まったくの個人的なイメージですし、ジャンルなどによってもかなり違ってきますけど、a:b:c=5:4:2くらいではないでしょうか。(本によっては、複数のタイプにまたがっているようなものも当然ありますが。)

 b.について、理解しがたい部分は、「外伝というのはまだわかるけど、キャラクター等を利用したオリジナルストーリーって、いったい何?」という部分かもしれません。
 「キャプテン翼」のキャラクターを使った戦国合戦物とか、「ドラゴンクエスト」のキャラクターを使った学園物などの話をすると、理解不能という反応をされる方はたくさんいます。

 そうですね、これは、例えば好きな芸能人を見て、「キムタクが戦国の武将をやったら、格好いいかな?」とか、「広末がワイルドな役をやると面白いかも」とか考えるのに近い作業でしょうか。(あまり、いい例えになっていませんね(^_^;)
 違うのは、それを形に表すかどうかです。しかも、そのキャラクターの性格や容姿が、現実のもの(原作のもの)よりも、むしろ自分のフィルターを通したものになっているという点でも、芸能人の捉え方と近いかもしれません。

 ここまでくると、そういう「パロディ同人誌」は往々にして原作とまったく関係ないところで成立してしまうということがあります。そして、こういった同人誌が存在しているということが、「パロディ同人誌」をおおざっぱな枠で一括して捉えられない理由でもあり、「パロディ同人誌」の著作権問題をどう考えるかという議論がまとまりにくい理由の一つでもあると私は思います。


3.アダルト同人誌

 最後に「アダルト同人誌」です。「アダルト同人誌」は、以下のようにわけられるのではないかと思います。

a.読者の性的興奮を目的としたもの(いわゆる狭義のポルノ)
b.恋愛ストーリーなどの延長線上としてアダルト向けの描写があるもの
c.いわゆる下ネタギャグ物

 ここでも、多くの一般の方は、「アダルト同人誌」というとa.をイメージされているのではないでしょうか。私はアダルト同人誌についてはそこまで詳しくないので、さきほどのような比率はちょとイメージできないのですが、少なくともb.やc.がある一定の割合で確実に存在していることは事実です。

 ですから、よく起こりがちな「アダルト同人誌はいかん」というタイプの議論について、すべてのアダルト同人誌を対象にするべきかどうかについては、十分注意する必要があると思います。
 例えば、「アダルト同人誌を子供に見せてはいけない」という議論でしたら、a〜cすべてが含まれると思いますが、「同人誌でポルノをやるのはけしからん」となると、bやcを含めていいのか、微妙なところだからです。

 ちなみに、「アダルト同人誌」には、「パロディ」だけではなく、ストーリーもキャラクターもまったく独自のいわゆる「オリジナル」物の同人誌も存在します。

 また、一般に「やおい」と呼ばれるジャンル(この言葉の定義も非常に難しいのですが、ここでは広範囲に「男性同士の恋愛を描いたもの」とさせていただきます)について、それが女性向けのアダルトであるという誤解が多いようです。

 まず、「やおい」は必ずしも「アダルト向け」ではありません。これは、たとえば、男女間の恋愛を扱った小説やマンガなどがすべて「アダルト向け」などということは絶対にないという事実からも、ご理解いただけると思います。それが男性同士の物語に置き換わっただけですから。(男性同士の恋愛そのものの是非はここでは問いません)
 また、仮にアダルト向けの「やおい」であれば、すぐにそれが「女性向けのポルノ」「ホモポルノ」ということもありません。アダルト向けの「やおい」であっても、上記のようにいろいろなパターンが存在するのは、他の「アダルト同人誌」とまったく同じです。むしろ、「やおい」の場合は、アダルト向けであっても、a.よりもb.のパターンがかなり多いように私は感じます。


 ずいぶん、長い文章になってしまいました。同人誌や、パロディ、アダルトといったテーマで議論をする際に、自分の持っているイメージがどういうものであり、相手はどのように考えているかを知る手がかりになれば幸いです。
 また、ジャンル内の分解について、「こういう分け方の方がいいのでは?」といった意見などありましたら、お聞かせください。

日曜出版社
石川 敦志


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