【ポケモン同人誌事件】

■内外の温度差を埋める努力の必要性(99.2.21)


 作者の声を載せたせいか、それを受けての「任天堂バッシング」が一部で再燃しているようです。もちろん、さまざまな観点から批判的になるのはかまわないとは思うのですが、頭ごなしの感情的な反応も見受けられるようなので、この機会に私自身のこの事件に対するスタンスを書いてみたいと思います。

 まず、私は一方的に作者の側に肩入れするつもりはないし、同人誌界の現状を今のまま全面的に容認する気もありません。
 ただ、今回の事件で、マスコミ報道というフィルターを通さずに、いったいどのようなことが実際に起こったかを知りたいという視点から作者にコンタクトし、インタビューを掲載させてもらいました。
 また、2回目の声は、作者の方が、今回の事件について多くの人の意見を聞きたい、それが自分に対する批判的なものでもかまわない、ということでしたので、掲載しました。(ちなみに、2回目の声は、インタビューではなく原稿をいただきました)

 作者の声は、それが同人誌を作っている側だけに、他の同人誌関係者にとっては身近だし、感情移入しやすい部分もあるかとは思います。しかし、逆に同人誌を知らない人から見れば、まったく理解できない可能性も十分あるのです。(実際に、そのような意見もいくつか頂いています)
 そして、作者の側に言い分があるように、任天堂にも言い分があるはずで、私としては任天堂側の(マスコミ報道でない)主張も、一刻も早く掲載したいと思っています。しかし、相手が企業ということもあり、さまざまな障害があって、現時点では実現していません。これについては、なんとか実現するよう、あきらめずに今後とも努力してみます。

 私は今回の事件は同人誌界にとっては不幸な事件であったけれど、逆に同人誌界の内外の温度差を埋めるいい機会ではないかと思っています。
 ポケモンという一般にも人気の高い作品だったこともあり、今回の事件は、いままでの同人誌関連の事件に比べて、同人誌界外からの意見もけっこう出ており、そこには、外との距離を縮めるための、さまざまなヒントがあるからです。

 このような事件が起きると、必ず「自分たちは好きで同人誌をやっているのだから、外の人間は介入しないでほしい」という意見が一部に現れます。
 たしかに、一部マスコミなどのいい加減な報道を見ていると、そう言いたくなる気持ちは分からないではありません。でも、同人誌をやっている人は本当に閉ざされた世界で満足できるのでしょうか。

 「コミケット」や「コミックネットワーク」といった大手のイベント主催者はオープンの姿勢を貫いています。思想や立場でサークルや参加者を制限することはありませんし、マスコミの取材にも応じます。そのおかげで、多く人が会場を訪れ、新しい出会いが生まれ、新しいサークルが生まれる。そして、イベントがますます発展していくし、安い印刷や、宅配便の搬入といった副次的なメリットも生まれてきました。
 「外の人は入って来てほしくない」という意見は、オープンな姿勢をやめること、そういうメリットもすべて自分たちが放棄するということです。それで本当に納得できますか?それに、同人誌をやっている人だって、最初はみんな外の人だったはずです。そんな人たちが同人誌の世界に入って来れたのは、私はオープンの姿勢をイベント主催者が崩さなかったおかげだと私は思うのです。

 世界を閉ざす、というのは相手にとっては見えなくなるということです。見えない、ということは恐怖につながります。大げさかもしれませんが、外部の企業からすると、実態が見えないために、同人誌界に恐怖を感じているところも多いのではないかと私は思うのです。恐怖を感じれば、その対応は、実態より大げさなものになる危険性だってあるのです。
 例えば、相手の懐に何があるか判らない状態では、銃を所持している可能性、というものを否定できない。だから、犯人が懐に手を入れたら、アメリカではそこに銃があろうがなかろうが、警官に射殺されても文句はいえません。
 あまりにオーバーな例だと思いますか。では、身近な例でいいましょう。同人誌において、ごく当たり前に、日常的に使われている作者のペンネーム、これも同人誌をまったく知らない人から見れば、「悪いことを隠すための偽名」と捉えることだってありうるのです。

 たしかに、同人誌をやっている「個人」から見ると、外国でも活躍しているような大企業が同人誌に恐怖を感じている、というイメージはピンとこないかもしれませんし、企業が権利を行使するときに、力を持っているものの横暴、と感じてしまうかもしれません。
 しかし、企業が見ている同人誌というのは「わずか2,3日の間に数万人の本の送り手、数十万人の本の買い手が集まる」とんでもない世界なのであって、個々の送り手のことではないのです。

 ですから、今回の事件を私は同人誌界内部だけでなく、外の世界も絡めて考え、その温度差を少しでも埋めていく道を探りたいと思うのです。そうすることが、結果的には同人誌の世界にとっても、よい成果をもたらすのではないかと思うからです。

日曜出版社
石川 敦志


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